子供の頃、父に抱っこしてもらってお話を聞くのが好きでした。
お風呂はいつも父と一緒、風呂の中で聞く冒険物語は、子供だった私の想像力を掻き立て、それはそれはおもしろくて、わくわく、いつも続きをねだっていた記憶があります。
私の子供達も、おじいさんのお話が大好きでした。
顔を見ればお話のおねだりです。
ある日私と一緒に実家に着いて、おじいさんの顔を見るなり、挨拶もそこそこに、
『ねぇ、お話聞かせてぇ』 と、こどもたちがさっそくお話のおねだりです。
突然のことに、おじいさん、ポケットの中に手を入れて
「あれぇ おはなし どうやら落としてしまったなぁ」
ポケットの中を探す真似。
「へえー 落としたんだったら、探さなくちゃあ」 こどもたち。
「おはなし、どこへ行っちゃったんだろうねー」
「そうだ、さっきおばあさんがごみと一緒に庭で焼いたって言ってたから、お話はなくなってしまったよ』
「お話はね、煙と一緒にお空に昇って行ったんだってさ」
「ふーん、」子供達、残念そう・・・・・。
「お空のどこまでお話は昇って行ったの~? 、どうなったの」
「ドンドン昇っていったら、雷に会ってね、ドッカーンとパンチをくらったの」
「うわっ かわいそう!!!」
『雷に打たれて、空からボタッとそこに落ちたの。」
いててててててて(お話)
「どうした!! お話!!」
この続きがどうなったかは覚えていないのですけれど、父の創作話は、いつもこんなふうに突然始まるのでした。
その、父が10年間の闘病生活の末に亡くなって、まもなく6年になります。命日が、もうすぐです。
穏やかで優しかった父。
「お花持って会いに行くから、待っててね、私にもマゴがいるんだよー。」